寝付きの悪さや眠りの浅さが気になるとき、すぐに効果が出そうな睡眠導入剤をまず選択したくなるかもしれません。
しかし、できれば薬に頼りたくない、もう少し自然な方法で、という気持ちがあるのではないでしょうか。
実は、食べ物に気を付けるだけでも睡眠の質は変えられるのです。
この記事では、睡眠の質を上げる方法の中の一つである食べ物について解説しています。睡眠の質を上げる栄養素や、それらを含む食べ物についてご紹介していきます。
睡眠の質を上げるために必要な成分ってなに?
それでは、睡眠の質を上げる栄養素とは具体的にどういったものなのかを見ていきましょう。
代表的な成分は、トリプトファン、グリシン、GABA、マグネシウムです。それぞれ順に、役割や必要な摂取量を解説していきます。

トリプトファン
トリプトファンは、睡眠ホルモンであるメラトニンの前駆体(材料)です。
正確には、トリプトファンからセロトニンが合成され、セロトニンからメラトニンが合成されます。
タンパク質が多い食品に含まれますが、過剰摂取はセロトニン症候群と呼ばれる健康被害を引き起こすとされ、摂取量には注意が必要です。
2020年に厚生労働省が発表した内容によると、成人におけるトリプトファンの必要量は4.0mg/kg/日(1日当たり、体重1kgに対して4mg)となっています。
体重50kgの成人であれば200mgが目安です。
上限については、厚生労働省では設定していませんが、フランス食品衛生安全庁(AFSSA)によればsupplementからの摂取は体重に関わらず1日220mgを限度とすべきとされています。
参考資料:日本人の食事摂取基準(2020 年版)
グリシン
グリシンは、次に登場するGABAとともに抑制性に働く神経伝達物質です。
神経の興奮を鎮め、リラックスさせる効果があります。
また、グリシンを摂取することで末梢(手足)の血流が増大し、深部体温(身体の奥深く、内臓の温度)を素早く下げる効果が得られるため、ノンレム睡眠の時間が増えるという研究結果も出ているのです。
グリシンの摂取量については、厚生労働省による設定はありませんがサプリの場合では各社ともおよそ3,000mgを1日量としています。
GABA
リラックス効果のある栄養素として、すでにご存じの方も多いであろうGABAはグリシンと同様に神経の興奮を抑える作用のある成分です。
また、メラトニンの合成にも関与しているため、睡眠を調整する作用もあると考えられています。
GABAも厚生労働省からは摂取量の目安が発表されていませんが、2010年に発表された論文では1日当たり30mg程度が妥当だと結論付けられています。
参考資料:ギャバ(GABA)の効能と有効摂取量に関する文献的考察
マグネシウム
マグネシウムには代謝や神経伝達物質の調整を行う役割があり、筋の緊張をほぐしたり、血流の改善といった作用もあります。
直接的に睡眠に作用するというよりも、様々な調整に関わり間接的に睡眠の質を上げてくれる存在と考えて良いでしょう。
日本人の食事摂取基準(2020年版)によれば、マグネシウムの摂取推奨量は男性の場合18-29歳で340㎎、30-64歳で370㎎とされています。
女性では18-29歳で270㎎、30-64歳で290㎎が目安です。
万が一マグネシウムを過剰摂取したとしても、尿から排出されるため健康被害の恐れはまずありませんが、厚生労働省では食品以外からの摂取量を成人で1日に350㎎(小児の場合は体重1㎏あたり5㎎)までと制限しています。
睡眠の質を上げるためにおすすめの食べ物
ご紹介した4つの栄養素について、どのような食品にどれくらい含まれるのかをリストアップしました。
毎日全てを網羅するのは難しいかもしれませんが、普段の食事に取り入れやすい食材も多いので、是非参考にしてみてください。
参考資料:食品成分データベース

トリプトファンが多く含まれる大豆製品・乳製品・穀類など
食べ物 | 含有量mg(可食部100g当たり) |
卵 | 1,300 |
大豆 | 1,200 |
乳製品 | 1,100 |
削り節 | 1,000 |
穀類(小麦タンパク) | 790 |
トリプトファンは体重50kgの成人で200mgが目安とされています。
この表にある食材はどれも日常的に摂取するものですから、極端な食事制限をしていない限りは不足する心配はありません。卵であれば1個(約50g)で650mg摂取可能です。
トリプトファンをあえてサプリで摂取する必要はありませんが、もしも服用しているサプリにトリプトファンが含まれているのなら、1日分に220mg以上含まれていないかは確認したほうが良いでしょう。
グリシン多く含まれる牛すじ・鳥軟骨・豚足・エビ・カニなど
食べ物 | 含有量mg(可食部100g当たり) |
牛すじ | 1,200 |
鶏軟骨 | 3,900 |
豚足 | 24,000 |
エビ・カニ | 4,300 |
卵 | 3,200 |
グリシンはコラーゲンに多く含まれるため、軟骨やゼラチン質の多い食材ほど含有量も増えます。
しかし豚足や牛すじなどは日頃頻繁に食べる機会はないので、エビやカニ、卵から摂取するのがおすすめです。卵1個がおよそ50gなので、1日2個食べればサプリ要らずです。
ちなみに、魚介類を食べたときに感じるあの甘みはグリシンの味なんですよ。
参考資料:グリシンの3つの効果(牛すじの部分のみ)
GABAが多く含まれる野菜(トマト・ケール・パプリカ)・果物(メロン・ブドウ・バナナ)など
食べ物 | 含有量mg(可食部100g当たり) |
トマト | 35 |
ケール | 12.3 |
パプリカ | 16 |
メロン | 72 |
ブドウ | 22 |
バナナ | 5.2 |
干したくあん | 120 |
発芽玄米 | 11.4 |
GABAを目安の30mg摂取するには、トマトであれば約100g食べる必要があります。
トマト1個がおよそ200gですので、半分食べれば良いということですね。果物を毎日食べるのはコストの面でも大変ですが、トマトなら比較的続けやすいのではないでしょうか。
更に驚異的なのが、干したくあんです。なぜこれほどまでにGABAの含有量が多いのかというと、干すことで栄養素が凝縮されるのはもちろんのこと、紫外線の作用で酵素が活発になりアミノ酸が増えるからではないかと推察されています。
玄米とたくあんという昔ながらの食事はGABAを豊富に含んだ組み合わせだったのですね。
では、毎日たくあんを食べれば良いのかというとそうとも限りません。
干さずに作るたくあんではGABAが十分に含まれていませんし(特に安いたくあんは、干さずに塩分で水分を抜いているものが多いです)、漬物である以上は塩分量の問題も出てきます。
GABAに関しては特に摂取量の上限も定められていないので、サプリで補充する方が効率的かもしれませんね。
参考資料:GABA高含有の宮崎県産干したくあん ヒト試験で血圧低下作用を確認
マグネシウムが多く含まれる魚介類や海藻類(あおさ・青のり・わかめ)など
食べ物 | 含有量mg(可食部100g当たり) |
あおさ | 3,200 |
青のり | 1,400 |
ワカメ(素干し) | 1,100 |
かぼちゃの種 | 530 |
ゆでそば | 27 |
ほうれん草 | 69 |
納豆 | 100 |
マグネシウムは海藻類に多く含まれており、文部科学省が公開している食品データベース上でも、含有量の上位20位まではほとんどが海藻類に占められています。
摂取推奨量は年齢・性別によって幅がありますが、仮に300mg摂取するには素干しワカメ25gが必要です。
毎日続けるのは少し大変かもしれませんね。
かぼちゃの種もマグネシウムを多く含みますが、カロリーが高いので食べすぎに注意が必要です。
ほうれん草や豆類、野菜にもマグネシウムは含まれるので、これらをバランス良く摂取するのが良いでしょう。
特に、カロリーやコスト面を考慮すると納豆はおすすめです。1パック約50gですので、マグネシウム50mgが摂取できますよ。
偏らないように栄養バランスを考えよう
睡眠にまつわる代表的な4つの栄養素を含む食品をご紹介しました。
4つの成分を摂取するだけでも、幅広い食品を摂らなければいけないということがご理解頂けたでしょうか?
もちろん、生きるために必要なのはトリプトファン、グリシン、GABA、マグネシウムだけではありません。
様々な栄養素を十分に摂るには、バランスの良い食事を心がける必要があります。
しかし、ぐっすり眠れずに悩んでいる方たちにとって、日々の栄養バランスを考えるのは大きな負担でもあるでしょう。
そんな時には、サプリの導入を検討しても良いかもしれません。
睡眠に必要な栄養素を網羅したサプリは現在多数販売されています。
おすすめの睡眠サプリについて詳しく解説している記事もあるので、悩んでいるという方は参考にしてみてください。
